ピラティスの呼吸について〜肋骨とインナーユニットが導く正しい呼吸とは?〜
ピラティスのレッスンを受けていると、「背中に空気を送るように」「肋骨を広げるように呼吸して」と言われることがあります。
ピラティスでは「胸式呼吸」が基本であり、呼吸を通してインナーマッスル(体幹)を活性化することがとても大切だということは、私自身も理解していました。
けれども実際に「背中に呼吸を送る」「肋骨を横に広げる」と言われたとき、頭ではわかっているつもりでも、自分の体が本当にそのように使えているのか?という点で少し自信が持てず、気になっていました。
そこで今回は、「ピラティスの胸式呼吸」について、自分の体で感じながら理解を深めるべく、肋骨やインナーマッスルの働きと合わせて改めて調べてみました。
呼吸の質が変わると、ピラティスの動きや体幹の安定感がぐっと変わってきます。
さらに呼吸は単なる酸素の出し入れではなく、自律神経や代謝機能、血液の酸塩基バランスにも深く関係しています。
特に胸式呼吸で横隔膜や肋間筋を適切に使えるようになると、腹腔内圧の調整がスムーズになり、消化機能の安定やホルモンのリズムにも良い影響が期待できます。
また、呼吸は交感神経・副交感神経の切り替えにも関与しているため、ストレスの軽減や睡眠の質向上、疲労回復にもつながる大切な要素です。
つまり、「正しく呼吸する」ということは、筋肉を動かすためだけではなく、内臓機能やホルモンバランス、そして心の安定を整える基盤でもあるのです。
Studio U.でレッスンを受けている方にとっても、普段のエクササイズの効果をさらに高めるヒントになれば幸いです。
ピラティスの基本的な呼吸方法
ピラティスでは、「胸式呼吸(ラテラルブリージング)」と呼ばれる、横隔膜を使って肋骨を左右に広げるような呼吸法が基本とされています。腹式呼吸のようにお腹を膨らませるのではなく、胸郭の側方や背面に空気を送り込む意識がポイントです。
なぜ「胸式呼吸」なのか?
ピラティスではエクササイズ中、体幹(コア)の安定性を保つことがとても大切です。腹式呼吸をしてしまうと、腹圧が抜けてコアの安定性が損なわれることがあります。そこで、腹部を固定したまま呼吸できる胸式呼吸が適しているのです。
胸式呼吸の基本ステップ
吸うとき:鼻からゆっくり息を吸い、肋骨を左右に広げるように空気を送る。背中側にも空気を入れるように意識。
吐くとき:口から細く長く吐きながら、お腹を薄く保ったまま肋骨を閉じていく。(自然に集まっていくイメージ、締めすぎないように注意すること)
腹圧を保つ:吐く息とともに、インナーユニット(特に腹横筋)を優しく引き込むように意識。
この呼吸法を正しく行うことで、体幹の安定性が高まり、ピラティスの効果を最大限に引き出すことができます。
肋骨と胸式呼吸の関係
ピラティスで用いられる「胸式呼吸」は、肋骨の動きと密接に関係しています。特に意識すべきは、肋骨が“どの方向に”どれだけ動いているかという点です。
胸式呼吸では、どこが動くのか?
胸式呼吸では、肋骨の側方(横)と後方(背中側)に空気を広げるように呼吸します。
息を吸うと、肋骨が横に広がり、背中側へと膨らむように開く動きが起こります。
吐くときには、肋骨が左右から中央に閉じ、下がっていくように収縮します。
この動きを引き出すことで、横隔膜がスムーズに上下し、体幹の深層筋(インナーユニット)と連動しやすくなります。
呼吸が浅いとどうなる?
肋骨の動きが硬く、呼吸が浅くなると、以下のような問題が生じやすくなります。
首や肩の筋肉に頼った「肩呼吸」になりやすい
胸郭の柔軟性が低下し、姿勢が崩れやすくなる
肋骨が開いたまま固定されることで、腹圧が抜けてコアが使いづらくなる
特に「肋骨が開いたまま戻せない」状態は、反り腰やポッコリお腹にもつながるため注意が必要です。
ピラティスで肋骨の動きを育てる
ピラティスの動きは、胸郭の可動域を広げることに非常に効果的です。
呼吸と動作を連動させながら肋骨を動かすことで、胸郭の柔軟性と安定性が同時に育ちます。
意識的に「吸って広げて、吐いて閉じる」という流れを繰り返すことで、自然と肋骨の可動性が高まり、呼吸が深くなっていきます。
呼吸とインナーユニットの関係
ピラティスでは「体幹の安定性」がとても重視されますが、その中心にあるのが インナーユニット(深層の4つの筋肉) です。
インナーユニットとは?
インナーユニットは、以下の4つの筋肉で構成されています:
横隔膜(Diaphragm)
→ 呼吸の主役。吸うときに下がり、吐くときに上がる。腹横筋(Transversus Abdominis)
→ 腹部をぐるりと囲むコルセットのような筋肉。腹圧を高める。骨盤底筋群(Pelvic Floor Muscles)
→ 骨盤の底を支える筋肉群。体幹の下支えをする。多裂筋(Multifidus)
→ 背骨を安定させる小さな筋肉群。
これらの筋肉は「呼吸」によって同時に動員され、自然と連携して働く設計になっています。
呼吸とインナーユニットの連動
息を吸うと、横隔膜が下がり、骨盤底筋や腹横筋が伸張される
息を吐くと、横隔膜が上がり、腹横筋・骨盤底筋・多裂筋が収縮して体幹が安定する
つまり、呼吸そのものが「体幹トレーニング」になっているということです。
精密栄養学の視点から見る「呼吸の質」
呼吸が深くなり、インナーユニットが活性化することで、以下のような生理学的メリットが得られます:
副交感神経が優位になり、ストレス緩和
血中二酸化炭素濃度の安定による酸素の効率的な供給(ボーア効果)
腹腔内圧の適切な調整により、消化機能や血流も改善
呼吸が浅く速くなると、交感神経優位の緊張状態が続きやすくなり、筋緊張・内臓疲労・睡眠の質の低下にもつながっていきます。
ピラティスでの胸式呼吸は、ただの「呼吸法」ではなく、体と自律神経を整える手段でもあるのです。
呼吸の質を高めるために意識したい3つのポイント
ピラティスで呼吸の質を高めるには、ただ胸式呼吸を繰り返すだけでなく、「どう使うか」を意識することが重要です。ここでは、日常のレッスンでもすぐに取り入れられるポイントを3つにまとめました。
1. 肋骨の広がりと締まりを感じる
ピラティスでは「背中側の肋骨に空気を送るように」と言われることがよくありますが、これは単に空気を背中に送るというより、肋骨の横・後ろ側が広がり、吐くときにしっかり締まる感覚を育てるためです。
吸うとき:肋骨の背中側、特に下部を横に広げるイメージ
吐くとき:肋骨が中心に寄り、下に引き下がるような感覚
この動きにより、横隔膜と腹横筋が連携し、インナーユニットが自然に活性化します。
2. 「吐く」を大事にする
多くの人は吸うことには意識が向いていても、「吐く」ことを疎かにしがちです。ピラティスでは、「吐くことで深層筋が活性化する」という視点が非常に重要です。
長く、細く、コントロールしながら息を吐く
吐くことでお腹が薄くなり、骨盤底筋や腹横筋が自然に引き込まれる感覚を覚える
この動作が身につくと、普段の姿勢や動きにも安定感が生まれます。
3. 首や肩をリラックスさせる
呼吸が浅い人に多いのが、「肩で呼吸してしまう」状態。胸や肩の動きが大きくなり、体幹の働きが抑えられてしまいます。
鎖骨や肩が上下しないように、首回りをリラックス
肋骨周辺の広がりを意識することで、自然と肩が落ち着く
ピラティスでは「力まないこと」が大切。呼吸の質を高めるためには、まずリラックスできる姿勢や空間が整っていることも大事なポイントです。
以上の3つを意識することで、呼吸の質が大きく変わります。そしてその変化は、姿勢・自律神経・筋バランスなど、身体の深い部分にまで影響を与えてくれるはずです。
〜呼吸が変わると、意識が変わる〜
私がピラティスを始めた当初、いちばん最初に感じたのは「呼吸が深くなった気がする」という感覚でした。
その感覚は当時うまく言葉にできませんでしたが、肋骨や横隔膜、インナーユニットといった身体の仕組みを学ぶことで、なぜあのときそう感じたのかが少しずつ理解できるようになってきました。
ピラティスでは、呼吸が動きの質を高める土台になります。呼吸が変わると意識も変わり、普段の姿勢や身体の使い方、さらには心のあり方にも自然と影響が出てきます。
そして何より、「毎日無意識に行っている呼吸に注意を向けること」は、生活の質を向上させるための第一歩。
ほんの少しの意識が、日々の身体と心に大きな変化をもたらしてくれるはずです。
ぜひレッスンの中でも、呼吸を意識して取り組んでみてください。
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